『フィラデルフィア染色体』原書中央のカラー口絵キャプションの訳

拙訳『 フィラデルフィア染色体―遺伝子の謎、死に至るがん、画期的な治療法発見の物語 』で、大人の事情により原書中央にある写真や図版を邦訳に載せることができませんでした。登場人物の写真やCMLの発症プロセスなど、読者の関心を引き出し理解を深めるのに役立ちそうなものだっただけに残念です。

しかしながら、掲載できないとわかる前にキャプションの訳は仕上げており、このまま眠らせてしまうのももったいないので、ここに公開することにしました。原書 The Philadelphia Chromosome: A Genetic Mystery, a Lethal Cancer, and the Improbable Invention of a Lifesaving Treatment (English Edition)  をお持ちの方はご参考になさってください。といっても、原書をお持ちの方は原文でお読みになれるので不要とは思いますが……。

---以下、口絵キャプション訳---

ピーター・ノーウェル医学博士(左)とデイヴィッド・ハンガーフォード。1959年に共同でフィラデルフィア染色体を発見した。

この2枚の顕微鏡写真は、ノーウェルとハンガーフォードがフィラデルフィア染色体について初めて公表した網羅的な論文に載っていたものである。どちらの写真にも、ノーウェルが考案した画期的なプロセスを用いて細胞分裂の途中で止めたヒト染色体が写っている。写真1は健康な被験者のもの。写真2で、矢印で示したのが、CML患者の細胞に存在する異常に短い22番染色体。染色技術はまだ初歩的なものだったが、ハンガーフォードはこの変異――フィラデルフィア染色体――を発見できた。

ナオミ・ローゼンバーグがエーベルソンウイルスでおこなった実験の細胞培養物。左:ウイルスを加えなかった細胞は、肉眼で見えない状態のまま。右:黒い点はどれも、ウイルスに感染した1個の細胞から生じた、目に見える細胞の塊。

1909年にペイトン・ラウスのもとへ持ち込まれたプリマスロックの雌。この雌の腫瘍から分離したウイルスは、ウイルスががん化の形質転換をもたらすプロセスを解明するのに役立ち、がんを引き起こす遺伝子が正常な遺伝子に由来するという発見へ導いた。

CML患者の骨髄生検サンプル。このサンプルは白血球と血小板が詰め込まれすぎて、正常な骨髄よりはるかに濃密になっている。CMLの早期症状のひとつは、骨髄内で血球がこのように過剰に増殖することによる骨の痛みである。

J・マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスが作成し、腫瘍遺伝子の細胞起源を明らかにした{src/【イタリック】}プローブ

【以下、図の書き込みは左から右、上から下に】

ラウス肉腫ウイルス(RSV)は、ニワトリに肉腫(腫瘍の一種)を引き起こすRNAウイルス。

DNAの一本鎖をRSVのRNAから合成する。

そのDNAに放射性元素で標識をつける。

発がん性の{src/【イタリック】}遺伝子をもつRSV

DNAを合成

放射性DNAに

次に、発がん性をもつRSVに由来する放射性DNAを、発がん性のない変異型のRSVのRNAとペアにする。この2本が組み合わさると、放射性DNAの短いセグメントが余る。ビショップとヴァーマスは、この余った部分が、がんを引き起こす{src/【イタリック】}遺伝子なのだと考えた。

放射性DNA 変異型RNA 組み合わせ

放射性DNAの余り({src/【イタリック】}プローブ)

この放射性セグメント――{src/【イタリック】}プローブ――を分離して、正常な鳥(ウズラ、七面鳥、ニワトリ、カモ、エミュー)のDNAとともに培養すると、そのセグメントは正常なDNAの配列とのペアを形成する。

鳥のDNA

いくつかの実験で、{src/【イタリック】}遺伝子は多くの種の正常なDNAに存在し、RSVが感染した際にその遺伝子がRSVのゲノムに組み込まれると、発がん性をもつことが確かめられている。この研究から、がんを引き起こす遺伝子(腫瘍遺伝子)が正常な遺伝子の変異型なのだということが明らかになった。

ジャネット・ラウリー医学博士。彼女は1972年、変異型の22番染色体が、22番染色体の一部と9番染色体の一部が入れ替わる転座によるものであることを発見した。

フィラデルフィア染色体の転座では、通常は9番染色体にある{abl/【イタリック】}遺伝子が、22番染色体にある{bcr/【イタリック】}遺伝子の隣に移動して、変異遺伝子{bcr/abl/【イタリック】}になる。この遺伝子の融合は、フィラデルフィア染色体の決定的特徴で、慢性骨髄性白血病を引き起こす。

【図のなか:左から右へ】

正常な9番染色体

正常な22番染色体

染色体の切断

変異した9番染色体

変異した22番染色体(フィラデルフィア染色体)

慢性骨髄性白血病患者の核型。1970年代に登場した分染法を利用したもので、9番染色体が延びて22番染色体が短くなっている(フィラデルフィア染色体)のがわかる。

フィラデルフィア染色体からCMLへのプロセスと、キナーゼ阻害薬がそのプロセスを止める原理

【以下、図の書き込みは左から右、上から下に】

ヒトには23対の染色体がある。

細胞核

この転座が変異遺伝子{bcr/abl/【イタリック】}をもたらす。

自然に生じるまれな変異で、22番染色体が9番染色体と部分的に遺伝物質を交換し、フィラデルフィア染色体ができる。

変異遺伝子{bcr/abl/【イタリック】}は、変異タンパク質Bcr/Ablのコードとなっている。このタンパク質は、キナーゼという、細胞内のさまざまなプロセスを誘発する酵素の一種だ。

キナーゼ阻害薬がないと キナーゼ阻害薬があると 薬 リン酸は阻害される

通常、AblキナーゼはATP(細胞のエネルギー源)から別のタンパク質にリン酸を運び、白血球の産生を開始させる。このプロセスはオンにもオフにもなるが、変異型のBcr/Ablキナーゼがあると、プロセスは止まらなくなる。

このいかれた活動によって、身体は白血球を作りすぎるようになり、それがCMLの顕著な特徴となる。

タンパク質

キナーゼ阻害薬は、リン酸が結びつくBcr/Ablの部位をブロックし、キナーゼのいかれた活動を阻止する。

その結果、白血球数は正常に戻る。

白血球

CML患者の血液サンプル。この病気の特徴と言える過剰にある異常な白血球が紫に染まっている。

FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)によるCML患者の染色体の画像。赤い点は{abl/【イタリック】}遺伝子を示し、緑の点は{bcr/【イタリック】}遺伝子を示す。黄色の点は、{bcr/【イタリック】}と{abl/【イタリック】}が融合している染色体を示している。

ノバルティス・ファーマシューティカルズのユルク・ツィマーマンとエリザベト・ブーフドゥンガー。ツィマーマンとブーフドゥンガーは、共同で世界初のチロシンキナーゼ阻害薬を作り出した。ツィマーマンは実験化合物を合成する仕事を率い、ブーフドゥンガーは新しい化合物ができるたびに抗がん活性の可能性を調べた。彼らの研究から生まれたリード化合物はBcr/Ablキナーゼを阻害し、CGP-57148Bと名づけられ、その後STI-571となり、最終的にグリベック(イマチニブメシル酸塩)になった。

2000年のウォーレン・アルパート財団賞受賞者。左から順に:オーウェン・ウィッテ、ニコラス・ライドン、ブライアン・ドラッカー、アレックス・マター、デイヴィッド・ボルティモア。この賞は、世界初のチロシンキナーゼ阻害薬の開発へ導いた研究を対象に、この五人に贈られた。

ブライアン・ドラッカーとラドンナ・ロポッサ。ロポッサは、OHSUでのSTI-571の治験に参加したなかで最も重症の患者だった。彼女は2000年に治療を始める直前に自分の墓を決めていた。この写真は、2011年に撮影したもの。

グリベックの400ミリグラムの錠剤。CML患者が一般に一日に飲む量。

2010年にフィラデルフィアのフォックス・チェイスがんセンターで催された、フィラデルフィア染色体発見50年を祝う会合(以下に太字で書かれた名前は本書に登場する人物)。

後列:フェリックス・ミテルマン、アルフレッド・クヌーソン、ジョーゼフ・テスタ、{ピーター・ノーウェル/【太字】}、{ニコラス・ライドン/【太字】}、ウィリアム・セラーズ、{オーウェン・ウィッテ/【太字】}。前列:{ジャネット・ラウリー/【太字】}、{アリス・ハンガーフォード/【太字】}(亡夫{デイヴィッド/【太字】}の写真を手にしている)、{ジョン・ゴールドマン/【太字】}、{ノラ・ハイスターカンプ/【太字】}、{チャールズ・ソーヤーズ/【太字】}、ホープ・パネット。

スーザン・マクナマラを登場させた2001年のグリベックの広告。彼女は1999年、患者主導の活動を率いて、ノバルティスに薬の生産を加速するように要求した。

このゲイリー・アイクナーと息子のタフの写真は、2013年、アイクナーが慢性骨髄性白血病の治療を開始しておよそ1年後に撮影されたもの。

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